「あ、これ欲しい」
 ぽいぽいと自分の籠にどんどん菓子を入れていくハルヒ。安いからって買いすぎると後で後悔することになるかもしれないぞ。
「大丈夫よ。どうせほとんど100円なんだし、後悔するほど買うつもりもないから」
 既に10品以上ちらっと見ただけで入れているんだがな。まあそれでも1000円と消費税しかしないんだから安いのは安いんだがあの調子だと2倍くらいに増えそうだ。
「たまに数百円するのもあるから良く見て入れろよ」
「そんなの分かってるわよ」
 放課後、ハルヒが欲しいものがあるからと100円均一の店へ行くと言い出した。
 良く考えたらここのところ部室に居てもやることはボードゲームかパソコンかテレビゲームの3択にほとんどなっていたことに気づき、ある意味では部室で引きこもってるみたいなもんじゃないかと思った俺はそれについていくことにした。菓子類を少し追加しておきたいと思っていたし。
 他の奴らはハルヒを監視するという立場上ってのもあるんだろうが、俺と似たような考えの奴も居たのかもしれない。
 とにかく8人全員での100円均一店舗行きがほどなく決定し、現在店舗内を思い思いに回っているところだった。
「あ、手鏡なんか売ってる。丁度欲しかったから買っておこうかな」
 朝倉は身だしなみ関係の辺りを熱心に見ているようだった。ハルヒとは違って物を良く選んで買っているようだな。
 鶴屋さんと実希は被り物のところに居て、鶴屋さんが一方的に話しながら笑っているのを隣で能面顔のまま話を聞いている。なんだかんだで実希もいろいろ手にとって見ているし、それなりに楽しんでいるようだ。
 他は……と。
「何見てるんだ、古泉」
「釣りでもしてみようかなと思いましてね」
「釣りか」
 古泉の前には竿やリールだけではなくルアーや針が付いた糸まで並んでいた。今時こんなものまで売ってるんだな。さすがに竿とかリールは100円じゃないが。
「餌を投げ入れてじっと待っている間も結構楽しいものですよ」
「分からんでもないが、100円なんかで売ってるようなので釣れるもんかね」
「どうでしょう。全く釣れないものならすぐに撤去されていると思いますが、1年くらい前には見た覚えがありますからある程度は釣れるんじゃないかと思います。あまりに売れなければスペースも無くなるでしょうし」
 そりゃそうだな。釣れないものを置いてても買う奴なんか居ないはずだ。よっぽど見た目が好きで飾りたいとか、そういう特殊な人間以外はな。
 古泉と別れて店内を歩くと朝比奈さんがしゃがみこんでいた。腹痛、というわけではないよな?
「何しているんですか?」
「あ、キョン君。ほら、これ」
 振り向いた朝比奈さんが嬉しそうな表情で指を指したのは植木鉢だった。
「ほら大分前に涼宮さんが植えたプランターのじゃがいもあったでしょ? あれがちゃんと育って花が咲いてたから、なんだかお花も植えたいなって」
 そういえば日当たりのいい場所を占領してジャガイモのプランターは未だに置いてあるっけ。確か寒い時期に早いとは思いながら植えた覚えがあるんだが、いくつかちゃんと芽が出てきて十分成長し、花をいくつもつけていた。なんとなくイメージ的に芋系は秋口って感じがしているんだが、「茎とか葉が枯れたら収穫時期で、多分7月か8月くらいには収穫できるんじゃないかしら」と朝倉が言っていたから夏休み頃にはじゃがいもパーティーができそうだな。
「あっちには花だけじゃなくて食べられるものが生る種も売ってて、100円なら簡単に試せそうだから楽しそうだなーって」
「そうですね」
 いいかもしれないな。あの植木鉢の小さな桜もいくつかが部室に残っているが既に葉も散っているし鑑賞にはちと寂しい。
「うふふ、なんか見てるだけでも楽しいな」
 種を見に行ってしまった朝比奈さんを追いかけず、他を見て回る。そういえばまだ長門だけ見つけてないな。あいつはどこで何をしているんだろう。やっぱり活字があるところだろうか。
 と思ったら案の定、本類が置いてあるところに居た。
 ちなみに本類とは言っても単語帳とかマナーブックとか、あまり読んでもおもしろくなさそうなものばかりだ。好きな人は好きなんだろうが、こういうところの辞書はさすがに単語の訳が少なすぎて役に立たないだろうと思う。少なくとも授業なんかには使えそうに無い。
「何かおもしろいものでもあったか?」
 ゆっくりと首を横に振る。そりゃまあそうか。いくら長門が活字好きとはいっても、これじゃ面白くないよな。
「知っていることしか書かれていないから」
「そういうことかい」
 てっきり読んでも面白くないものだからだと思っていたが、こいつにとってそういう面白さはどうでもいいのか。
 宇宙の真理とか英知を全て集結させたものが長門や朝倉、実希みたいなヒューマノイドインターフェースなんだから確かにこの辺りの情報なんかは今更だろうが、そういうレベルになると面白さの観点が違ってくるのかね。
「でも安価に大量の製品が置いてあることは興味深い」
「今時は大量生産の時代だからな」
 って良く見れば菓子を結構多量に籠へ入れてあった。食うのか、全部。1度ではないだろうが、結構買うもんだな。
「…………安価」
「……分かった。好きにしてくれ」
「そう」