「キョン!テレビ番組ってどう作るか知ってる?!」
 ようやく来週には春休みがやってこようという時期に、そんなことを教室の扉を開いた直後にのたまいやがったハルヒは最高の、満面の笑みだった。こいつの笑顔の提案はロクなことがないということは再三、声を大にして言ってきた。どうやら発言の内容からして、今回もその例に漏れない様子だ。
 全く、何を言いだしたんだ、こいつは。
「ほら、ニュースになってたじゃない」
 最近のニュースで、テレビ関係となると…、
「捏造ばかり放送してた番組があったって」
 ああ、そんな話もあったな。
「あんな放送なんかくっだらないわね。だから、あたしが番組作ってやろうかと思って」
 思わないでくれ。
「あたしの番組なら視聴率はうなぎ上りの滝上り、満員御礼の満漢全席よ!」
 真面目に番組を作っている人に謝れ。あと、満漢全席は豪勢な宴のことで、別に席が全部埋まることじゃないぞ。
 それに、作るのは大変だぞ。いや、よく分からんが、きっとな。
「何よ。映画も作ったことあるんだから、それくらい楽勝よ」
 俺がビデオ撮りし、俺が編集し、俺が映研に委託したんだから、そりゃお前は楽勝だろうな。それらしくイスに座って「カットよ、みくるちゃん!」とか言ってりゃいいんだからな。
 そもそも、どんな番組を作るんだよ。もしかし、また朝比奈さんを主役にした「朝比奈ミクルの冒険」を連続テレビモノにして、毎回悪いやつらを「みくるビーム」でバッタバッタと倒していく、どこにでもありそうなB級特撮番組でもやるつもりか。
「内容ね…。そういえば考えてなかったわ」
 どんな番組をやるかすら決めてないのに、テレビ番組を作りたいとか、どういう脳構造をしていたら発想されるものなのか、ぜひとも知りたい。そうならないように俺は気をつけるからな。
「何の番組だったら視聴率取れるかしら」
「お前の番組なら視聴率はうなぎのぼりなんだろう。だったら好きな番組をやればいいだろう」
 それこそ、チュパカブラでも何でも、番組で歩き回って探しにいくとかな。番組のスタッフは疲れるだろうが、俺の知ったことではない。
「何言ってるのよ。どんな番組でも視聴率が取れるからといって、リサーチやマーケティングをしない人間に勝利はないわ」
 テレビ番組に勝ち負けがあるとは初耳だ。
「そうね。霊能力者を装って「あなたの守護霊は母方のおじいちゃんのお父さんの、そのまたお父さんのいとこです」とか言ってれば言いかしらね。みくるちゃん、どう思う?」
「えっ、えっ?」
 鶴屋さんと人生ゲームをしていて、新しくできた子供の分の棒人形を車に刺しているところだった朝比奈さんは、ハルヒに突然話題を振られたため、酸素不足の金魚のようにパクパクと口を開閉させるだけで二の句が継げられずにいた。
「みくるちゃん、ちゃんと聞いてた?これはSON組の将来がかかってるかもしれないのよ」
 大げさすぎだ。
「あ、あの…」
「ちゃんと聞きなさい。SON組で番組を作るなら、どんな番組やれば視聴率が取れるか、どうなのって聞いてるの」
「ハルにゃん、テレビの番組を作るのが決まったかい?そりゃすごいねっ!」
 決まったのはハルヒの脳内だけで、現実としては放送内容すら考えていないような状態です。
 というか、マジで作ることなんかないと思いますよ。無理です、そんなの。
 それでも、生真面目に朝比奈さんは答える。
「そうですね。お料理番組とかどうでしょうか」
 そこはかとなく家庭的な雰囲気を持っている朝比奈さんらしい意見だ。
「子供向けの楽しい番組なんかいいかもしれないねっ」
 こちらは鶴屋さんの意見。二人とも妥当かつ現実的で、こういうものならまだやってもいいかなとか思ってしまうな。まあ、ハルヒは満足しそうにないが。
「そんなありがちな番組やっても意味ないのよ!」
 ほらな。つーか、霊能力者がどうのとか、ありがちなことをやろうとか言っていたのは誰だったかね。
 それに、目新しいことは瞬間的な視聴率は取れるかもしれないが、それ以降は内容が話題性と同時に伴っていないと続かないぞ。
「じゃあ何だったらいいのよ」
「さあな」
 そんなことが分かったらどんな番組でもやっているだろうよ。
 しかし、そんな言葉に答えた奴がいる。
「女性向け番組」
 最近アクティブな長門だった。
「女性に分類されるカテゴリの生物は、有機媒体の質量の減少を望むことが多いという統計が出ている」
 この統計とやらは、協力:情報統合思念体とテロップが流れそうだ。
「いまいちよく分からないんだけど」
「つまりダイエットってことですね。あとはキレイになる方法とか、スタイルが良くなる方法とかの番組なんかがいいんじゃないですか」
 実希が分厚い本から、もしかすると前長門が読んでいた貸出禁止の本じゃないかね、視線をハルヒに向けて助け舟を出す。
「例えばどんなものよ」
「胸の前で両手を合わせて押し合えば、胸の筋力が発達して胸が大きくなるとか」
 なんか聞いたことあるようなないような話だな。
「今のは人間の噂でたまに聞かれるようなことですし、この程度じゃだめだと思いますけど」
 また本に視線を戻した。こんな小ネタだけじゃ50回と持ちそうにないな。
 ハルヒはしばらく悩んでいたが、諦めたのか「まあ、いいわ」とか言ってパソコンを起動させてトランプゲームを始め、それからはテレビ番組の話はしなかった。まあ、そこまで本気じゃなかったんだろうな。
 
 …それから数日の間、長門が胸の前で手を合わせていたのを部室で目撃した。長門、気にしてたのか。