困ったな。
と言いつつあまり困った表情でないのは、いざとなったら長門か誰かが助けてくれそうだという期待があったりするからだろう。
今まで超常現象的な何かがあるとその度に長門に助けられている。もちろん俺自身1人で何度か、他の人間に話しても頭を疑われるようなことに巻き込まれて、そいつを解決してることもある。たまに1人だけで奇妙な世界へ飛ばされていたりするしな。
だが所詮俺は単なる一般人。そこらを歩いている制服姿の高校生と何ら変わることは無い。強いて言えば奇妙な人間に周りを囲まれた、これまた奇妙な名前の部活に強制登録されていることくらいだ。それも自動的に。
長門たちだってもちろん完璧でない。最近は特にあいつが分からないような事件も多々起きているし。
だからそもそもこんなところへ俺が来ていることすら知らなくてもおかしくない。閉鎖空間へハルヒと閉じ込められたあの日は、そもそも観測対象だったハルヒが世界を崩壊させる序章を始めちまったというからここに居たことが分かっていた。さらにハルヒをどうにか止める方法を持ち合わせているのが何故だか俺だったという状況で、そりゃ長門や古泉が俺の場所を知ってても大して不思議じゃない。
現在はハルヒの監視という任まで解かれているんだから、あいつらが俺を探す見つける可能性はほぼゼロと言っていい。さすがに数日帰らないとかになれば別の話になるだろうが、既にいくらこちらで時間を潰しても元に戻ったときにはほとんど元の世界から離れた時間から変わってないという前例が数度あったから、そっちを期待するのも無理な話だ。
「よし」
いつまでも長門たちに世話になってはいられない。あいにくというか幸いというか、どうやら自分である程度考えれば元の世界へ戻れるかもしれない環境下に居るようだからな。
高校でSON組の付き合いが終わればこんなことは遥か彼方のどこかの星の物語みたいにしか思えなくなるだろうが、少なくともそれまでは他人事じゃない。まだまだ高校生活も続くわけで。
何はともあれ、これだけこれだけ広いところでたった紙切れ1枚かそれくらいの大きさだろうと思われる文字を見つけるのは至難の業。砂漠で落としたコンタクトを探す気分だ。
となると闇雲に探していても一生お目当てのものにはめぐり合えそうに無い。ある程度照準を絞らなきゃな。
ここのマップは最初俺が走っていた道を中心としてほぼ線対称な環境下に居る。例外は引き抜かれた板を差し込む穴とかオブジェの位置か。
全てが完全に線対称になってるわけではない、ということは他にも線対称でない部分があってもおかしくない。そういえば地下の機械から伸びてた線、あれも別に線対称って感じはしなかったな。
しかし外周上を回ってきた限り見つかったのは新たなマンホールと金属板くらい。板を差し込まれる側の穴も機械から伸びていた銀色の延長上。割と分かりやすい位置に全部ある。
一連のことを考えれば、複雑に入り組んでいるように見えるものの実はその他の道は全部ブラフというか無関係なところでしかないんじゃないかと思えてきた。もうこうなったらこうやってある程度、前提を決めてやっていくしかない。
となれば銀色の線上か最初のマンホール辺りがやっぱり怪しいな。あのオブジェも怪しいといえば怪しいんだが、下手に動かして壊れたりして重要アイテムだったら困るし、なるべくあれを調べるのは後回しにしておきたい。
近いのはマンホールの方だな。まずはここから調べてみるか。
初めに止まったマンホールの傍へ自転車を止めてから地下へ下りると再び光りだす靴。さてと、今まで区画数が20まで直線的に見てきたが、今度は螺旋状に縦横20区画の範囲で移動してみるかな。幸い前残したペンの数値が靴のお陰でかなり見やすくなっていて、20区画も丁度周回回数を数える必要が無い。
往々にして予想というのは裏切られるものである、と前置きをしたら結果はもう言わなくても良いだろうか。
東西南北20区画分移動してみたがそれらしいものは全く見つからず、それ以上の探索は断念して地上へ帰還した。この様子だと時間の無駄にしかならないな。
ならば仕方が無い。もう1つの怪しい方を調べにいくか。
再び地下へ。銀色の線上を進む前に再度機械を丹念に調べてみたが違いは無し。数字が機械のどこかに彫られていたら助かったんだが。
機械を調べるのは切り上げて、1番怪しい銀色の線上を辿って走っていたのだが、目の前に広がる光景に引っかかりを覚えて途中で足を止めた。
さっきから少し気にはなっていたが、改めて見てみるとやはり疑問だ。
水路の脇にある通路には平面な橋もどきが掛かっているが、水路の幅が割と狭いため人は少し足を開けば十分に水路をまたげる。
今俺が追いかけている銀色の線だが、幅はせいぜい俺の足の幅と同じくらいの幅しかない。通路の幅から考えればかなり狭い。
この銀色の線は区画同士を繋げている石製の橋の上を通っている。水の中を通ると不具合があるからだろうか。
それにまだ疑問は残る。最大の疑問はこっちだ。
一部の線は角を曲がって進んでいくのだが、途中で向かいの小さな橋を渡り、元来た方向へ帰っていくことがある。
引き間違えたにしては随分回数が多いのも疑問点の1つだが、何よりも単に間違えたのならば間違えたところで一旦切ってしまい、本来書き直すべきところに戻ればいい。
これを引くための機材が重かったにしろ、いちいち向かいの通路に進まなくても同じ通路を引き返すスペースは十分ある。
やっぱりこれには何か意味があるのか?