必要なものを買って、買い物袋を提げて帰り道の途中、
「あら」
 同様に買い物袋を提げた朝倉と長門に遭遇した。ハルヒの召集がないときまでSON組のメンバーに出会うというのはハルヒによる呪いじゃないかと思う。どこの教会とかで治療できるんだろうかね、これ。それとも、末代までたたるタイプか。
「どうしたの?」
 それがだな、親の使いなんだ。この年になってお使いもないと思うんだがね。いつもなら、妹が嬉々として行くんだが、遊びに行ってるらしくてな。
「それはお疲れ様」
 そっちも買い物か。
「そ。インターフェースの維持には結構エネルギーが必要なの。あなた達のような人間以上にね」
 長門がこくりと頷く。有機インターフェースも大変なんだな。
「実希はどうした?」
「有機生命体観察」
 あいつ、まだそんなことやってるのか。
「そうそう。それに観察しやすいところに喫茶店を見つけて、そこの緑茶がおいしいんだって言ってたわ」
 コーヒーとか紅茶ならまだしも、喫茶店で緑茶とは。どこぞの緑茶と温泉が好きなロボットみたいだな。
 3人で商店街を歩き、ハルヒ監視用アンドロイド御用達のマンションへ向かう。家まで送っていくぜ。
 その途中で、井戸端会議の真っ最中の主婦の傍を通り過ぎる。
「今日うちの子の卒業式だったのよ」
「あら、ということはもう来年は中学生?」
「早いわねえ」
 ああ、そういや小学生の卒業式だったか。
 と、長門がくいくいと袖を引いた。最近このパターンが増えたが、あえて聞こう。どうした、長門。
「卒業式というのは何?」
 お前も最近出ただろう。3年間高校の授業を受けて、もう教えることがないと判断された人間はその上の大学か、就職か、今流行りのニートかになるために、学校から出ることだ。俺達は見送る側の在校生、3年生が卒業する側の卒業生だ。
「ああ、なんかやったわね。途中から泣いていた人間が居たけど、なんで泣いてたのかよく分からなかったわ」
 もう教師や会えなくなる友達との別れを惜しんでいるんだろう。まあ、卒業をする生徒を送り出す会だ。入学式と同じで、まあ形式上強制参加されてるところがあるが、正直だるいだけだな。
 そんな俺の話をちゃんと聞いていたんだろうか、長門はこう言った。
「卒業式をしてみたい」

「ただい…。何してるんですか」
「見て分からないか。卒業式だ」
「分かりません。どこを卒業するんですか」
「知らん」
 それはそこで無表情のまま、俺手製の卒業証書を受け取っている長門に言ってくれ。
「卒業式を体験してみたかったから」
「と、いうことらしい」
「卒業式ならもう既にやった気がします」
「卒業する側になりたいと、そういうことだ」
「次は何だったかしら…。ああ、送辞と答辞?」
「だったような気もする」
 正直、そういう行事的集まりは聞き流しているだけで、何のありがたみもないもんだからな。順序をしっかり覚えてなんかいないぜ。
 帰ってきた実希を在校生側に加え、在校生は朝倉と俺と実希の3人で、卒業生は長門1人である。送辞は成績がいい奴がやるのが定説らしいし、朝倉がやってくれ。
「私も卒業式とかいうのはよく分からないわ」
「あなたがやって」
「ここはあなたがやるべきだと思います」
 分かったから全員で取り囲んで迫って言うな。
 記憶にあるそれっぽい言葉の羅列で送辞らしい言葉を述べると、長門の答辞。
「分かった」
 …答辞は返答するだけじゃなくてだな、こう、「今日この学びの巣から旅立つ私達ですが」とかなんとか、まあいいか。これで答辞とする。
 次は卒業の歌か。今は流行りの歌とかを歌う学校もあるらしい。まあ、しかし、ここはオーソドックスな卒業式の歌がいいだろうと教えると、すぐにその歌を覚えて完璧に歌った。さすが、ギターを渡された直後にソロパートまで完璧に弾いただけある。
 最後に卒業生退場。在校生の拍手と共に、卒業生が退場する。3人で拍手して長門が部屋を出て行くところまで見送った後、すぐに長門を呼び戻す。「長門、もういいぞ」
「まあこんな感じだな」
 お偉い人達のお話とか、校長の話とかいろいろすっとばしたが、大まかな流れには沿っていると思う。長門、満足したか?
「した」
「ま、実際に高校卒業するときに、全部やることになるからな。残りのところはそれまで待ってくれ」
「分かった」 
「でも、どっかのアニメみたいに、ずっと1年生なんですよね」
 そういう大人的事情は置いておけ。