放課後、既に馴染み始めた廊下を歩いて教室に入ると、俺以外のメンバー全員が揃って何やら食べていた。黒いのだの、緑色のだの、黄色いのだの。
「ひょん、ほほひはよ」
口に入っているものを飲み込んでから喋れ。俺は宇宙語は解さんぞ。
「へつに、ふしゅうほしゃないはよ。…それより、会議に議長より遅れて来るなんて言語道断だわ」
言ってない。この世に神様とやらがいて、それがこいつじゃなかったらその神様に誓って言ってやろう。お前は一度もそういうお前的重要事項を、事前に俺に伝えたことはない。
「まあ、いいじゃないですか。あ、今お茶淹れてきますね」
朝比奈さんがいつも通りの格好で、やかんを再度火に掛ける。ああ、すみません。
「で、今日は何の会議なんだ」
聞きたくないが、ここで聞かない訳にはいくまい。ハルヒが突発的に、そして高らかに宣言する前に、こっちの心の準備というものをする必要がある。つまり、俺は椅子に座り、鞄を椅子の下に置き、一呼吸ついてからそう尋ねた。
「最近SON組の本来の仕事をしていないのよ」
「本来の仕事と言ってもな」
”宇宙人以下省略な人たちと仲良くなって一緒に遊ぶこと”なんて、今時の小学生だって考えないようなことを限りなく真面目な顔で言いやがる。ああ、本当にどうにかしてもらいたいものだね。
「はい、どうぞ」
ありがとうございます。
「今日はお彼岸ですから、ぼたもちなんですよ」
一つの皿にカラフルな3つの餅が載っている。ああ、黒は餡子で、緑が青海苔、黄色はきなこですか。
「とにかく聞きなさい」
聞いてるさ。聞きたくなくてもお前の声はでかいから良く聞こえちまうんだよ。
「せっかくSOS団からSON組に変えて、新しい人も入れて、宇宙人とか探そうと思ってたのに…どこかに誰かが匿ってるわね。きっと、誰かがSON組の動きを読んで、先回りしてそういう人達にお金でも渡して、確保してるのね。そうに違いないわ!」
政治家の根回しや、どっかの野球チームじゃあるまいし。まあ、実際にそんな団体だか個人だかが存在したとして、こいつの目から隔離しておくのは正しい選択だと思う。何するか分かったもんじゃないしな。
お、この餡子は甘すぎず、かといって甘みを感じないわけでもなく、程よい甘さで口の中に広がり、その後のもち米のしっとり感が来ていいな。青海苔はもっと甘さが感じられないものだが、しっかりと餡子の味が広がりつつ、青海苔が質素な甘みを引き立てている。きなこはきなこで、砂糖をまぜたきなこだろうか、あんこの控えめな甘みとマッチしている。
とどのつまり、うまいってこった。うむ、やっぱりグルメレポーターにはなれそうにない。まあ、なる気はないんだけどな。
「キョン!聞いてるの?」
おっと、話がずれた。超顧問様の怒りに触れるとろくなことはないし、話を戻そう。
なんというか、まずSON組に組織再編したときに、また宇宙人2人と異世界人を追加してるんだぜ。知らず知らずとはいえ、なんでこうまでピンポイントに隠しキャラとか特殊キャラを侍らせられるんだろうな。
そうか、あの黄色いリボンが実はアンテナになっていて、そういう超常現象や不思議スペックな人間を引き寄せているのか!
…んなわけないよな。俺も随分とハルヒに毒されているようだ。
「だから今度の休日には不思議探索に行くわよ」
そう言えば久しぶりだな、SON組での不思議探索は。まあ、行ったところで俺の懐が寒くなるだけなので、できれば回数は少ない方がありがたいわけだが。本来、俺が払うと決まっているわけじゃないんだが、何度早めに出ようとトライしても、奴らは全員先に集合している。ここは素直に時間通りに行く方が精神衛生上いいってもんだ。
ごちそうさま。おいしいおはぎだったな。
「何言ってるのよ。それはぼたもち」
おはぎじゃないのか?
「違いますよ。…んーと、本当は間違ってないんですけど、間違ってます」
あごに人差し指をちょんと当てながら思考していた朝比奈さんが答えた。はて、さっぱりわからないんですが。
「本当は同じなんです。でも、食べる時期によって違うんですよ。ぼたもちは本当は牡丹餅、おはぎはお萩で、それぞれ春と秋の花に見立てているんです。それで、どちらの季節に食べるかで呼び名が違うんです」
そうなんですか。
「それくらい常識よ。あと、昔は収穫時期によって小豆の皮の硬さが違ったの。春は冬を超えた硬い小豆を使わなきゃいけなかったから皮を使わないようにこしあんに、秋は大豆の収穫直後の皮が柔らかい時期だから粒あんにしたのよ」
知らなかったな。もちろん、ぼたもちとおはぎの違いもだが、ハルヒがこんなことを知ってるということもな。
「常識よ、常識。キョン、あんたもSON組の一員なら、常識くらい身につけておきなさい」
一般を常に逸脱している代名詞とも言えるようなお前には言われたくないものだ。
「まだ今は寒いですし、暗所に保管しておけば明日もまだ食べられると思いますので、ラップをして置いておきますね」
残ったおはぎ…じゃなかったぼたもちを、ハルヒがまたどこかから強奪という名の強制譲渡をさせてきたのかは不明だが、いつの間にか増えていた背の高い棚に朝比奈さんが仕舞おうとする。しかし、よりによって朝比奈さんは一番高い棚にそれを仕舞おうとしている。椅子を使わないと、朝比奈さんの身長では背伸びしてギリギリだ。危なっかしいったらありゃしない。
と思っていたら、やっぱり案の定。
「きゃあ!」
皿が棚から落ちる!
…と思った直後、下でその皿をキャッチした人物がいた。
「ナイスキャッチ、長門」
こくりと無表情に頷いた人語を解するインターフェース。危なかったな。
「これぞ、棚からぼたもちよね!」
ハルヒの一言。おい、今日はこんなオチでいいのか?!