授業でそれなりに使用した脳に、一時的に英気を養う時間、それが放課後である。――本来は。
放課というのは小学校、中学校、高校などで、その日1日の学業、課業が終了したということ。つまり、帰宅部の奴らはそのまま家に直行か、ゲーセンに寄り道、ファストフード店で談笑などというルートを辿ったりするし、部活に入ってる奴らは、これから部活に精を出すわけだ。
そういう意味では、自分で自分に課した業務の範疇に入っていることから、まだ放課後と言えないと思う。
特に俺達、SON組は放課後ではないと言って差し支えないだろう。自分の課業ではなく、涼宮ハルヒという人物によって居残り強制労働を命じられているわけだからな。
全く、世の中というのは不条理にできているものだ。
そう言いつつ、朝比奈さんが入れてくれた緑茶を啜るひとときは案外悪くない。というか、非常にまったりとしてて心地よい。そういう意味ではハルヒに感謝なわけだが、この感謝の言葉なんか大体数秒から数分、長くても数日の内には撤回され、その上書きでやっぱりこいつは駄目だ、となるのは目に見えてるんだよな。
そうこうしているうちに、SON組の根城となっている教室の扉の前でとりあえずノック。無反応だから扉を開けてみる。
誰も居ない。まあ、その内誰か来るだろう。ハルヒに「今日はなし」とも告げられていないし、ここで勝手に帰ったら後で死刑宣告されそうだ。
朝比奈さんが居ないので、仕方がない、今日は自分で淹れるか。
2杯目のお茶を飲み切る前に、何やら緑の板に銀色のものがたくさん付いたものとドライバーセットを持って、長門がやってきた。俺の顔をちらりと見、小さく首を縦に振って、ハルヒが強奪して、愛用と呼べるほどは触っていないコンピュータに近づいた。今の頷きは長門の挨拶なんだろうか。とりあえず挨拶は返しておくか。
「よう長門、何しているんだ?」
足元に置かれたコンピュータを器用にドライバーではずし、中に刺さっている板と持ってきた板を入れ替えた。そして、最初と同じ状態にコンピュータを組立て直し、OSの起動画面を眺めながら長門は、
「中身を取り替えた」
「いや、なんとなくそれは分かるんだが、何のためなんだ?」
その答えはすぐにやってきた。
「コードは持ってきたんだが、どうすればいい?」
「ここに」
何やら長いコードを持ったコンピ研部長だった。てか、この人は何をしに来たんだ。
部長は長門に促されたところにそのコードを持ってくると、コンピュータ本体後方に付いている数多い穴から、必要な一つを見つけて差し込んだ。それを確認し、長門がソフトウェアを起動させると、相撲が映った。
「どうだい?ちゃんと映るだろう」
「映る」
「あまり新しいものじゃないけど、もうすぐ地上波デジタルに完全切り替えだし、そっちのチューナーの価格が安定するまではこいつを使っておくといい。また新しいのが出たら、提供されるらしいからね」
「分かった」
何が何やらさっぱりなんですが。
「団長さん…じゃなかった、超顧問さんだったんだね、今は。あの人に「このパソコンでテレビが見れるようにしなさい」と言われてしまってね」
すみません、またハルヒが迷惑を掛けたようで。
「まあさすがに慣れてしまったものだよ。それに今回は無理矢理持っていかれたわけじゃなくて、学校側からの補助もあったからね」
「学校側からの補助?」
注意されることはあれ、褒められることはなかったように思うが。
「幽霊騒ぎがあった廃校を覚えているかい?そこの校長が非常に感謝して、うちの学校の校長に働きかけたんだと聞いたよ。他にもPTAとかからも、SON組の活動を良と見る人が多いらしくて、今回のようなわがままを通してくれたみたいだ。基本的には、部活動のための情報収集に使いなさい、という規定はあるらしいけど」
ああ、そういやそういうこともあったっけ。結局謎を残したまま終わったが…あの子はどうしているんだろうか。
「とりあえず、僕の仕事はここまでだ。じゃあ僕は部活に帰るよ」
「わざわざすみません」
長門が今まで使っていた基盤を、持ってきた基盤が入っていた袋に入れてコンピ研部長に渡すと、部長はそれを受け取って帰っていった。全く、ハルヒはどこまで人をこき使えば気が済むんだろうな。
しかし、テレビか。視聴覚室とかの特別教室にしかないものだったが、今やコンピュータに内蔵されるとは。いやはや、時代の進歩とは恐ろしいものだ。
長門はコンピュータを落とさずに、そのまま何やら先程起動したソフトを触り始めた。さっきから番組表らしきものの一部にマーキングが入っているんだが、なんだろうね。
「超常現象、その他怪奇事件の類の放送を全て録画する」
何やってるんだと聞く前に長門が答えた。
どうやら番組表らしきものは本当にテレビの番組表らしく、インターネットを使って、コンピュータで番組表を見ながら録画する番組を決められるらしい。本当にコンピュータの進歩は日進月歩だな。
ってちょっと待て。完全に私用じゃないか!
「命令には背いていない。部活動のための情報収集」
そっちの活動のためじゃなくて、ブログとかに書くような一般的情報だろう。
「どういう活動内容に対する制限かは明示されていない。だから事実上、命令を違反してはいない」
やれやれ、相変わらずだな。
「他にもドラマやアニメも」
って、ハルヒ一人でどれだけ録画するつもりだ。
「涼宮ハルヒだけではない」
もしかして、他の奴からも頼まれてるのか?
長門は一度だけ首を縦に。もう、勝手にしてくれ。