「さあてと、どうするっ?」
「そうですね……」
 ハルヒたちと朝倉たちは大通りに出て二手に分かれるらしい。朝比奈さんたちは元来た道を戻る方向を探すと言っていた。
 再集合の2時半まではまだ1時間近くあるし、時計を見つけた張本人としては時間が来るまでどこかで時間を潰すなんてことはできない。
「朝比奈さんたちと同じ方へ行きましょうか」
 いくら大通りとはいえハルヒたちと朝倉たちが行くんだから、それらしい人が居ればどちらかが見つけるだろう。むしろ大通りの方が見通しはいいから人員をあまり割かなくていいくらいだ。
 それなりに細い道とはいえ、横道なんかに入ればまだ朝比奈さんたちが通っていない道もたくさんあるだろうし――
「あれ、鶴屋さん何してるんですか?」
「これかい? ふふふ、ナイショさっ。ま、保険みたいなものだねっ。きっとその内に分かると思うけどねっ」
 いたずらっ子が罠を仕掛けて友達が掛かるのを待っているかのような笑顔で何をしたのか教えてはくれないが、何かポケットから小さい物を取り出して電柱の陰に付けたのだけは分かった。
 何をしたのか気にはなったが、知らなければ先に進めない話でも無いからそのままにしておくことにした。その内に分かるかもしれないらしいから、その時が来たらその時に知ればいい。
 元の道を少し戻り、十字路へと差し掛かる。
「朝比奈さんたちはどっちに向かったんでしょうね」
「んー……」
 突然鶴屋さんは少し顔を上げたかと思うと鼻をヒクヒクさせて、
「みくるの匂いがするからあっちだね!」
「マジですか?」
「あっはっは、冗談冗談」
 本当にこの人の行動パターンも思考パターンも良く分からんね。今のはギャグなんだろうか。異世界人のセンスなのかもしれないな。
 それか実は本当に分かっていたりするんじゃないかと思ったりもする。匂いとかじゃなくて別の理由で。
「どこへ行ったか分かんないし、とりあえず左行ってみちゃおうか。そのまま真っ直ぐ行ってる可能性も大きいし。同じ方向に行ってるんだったら引き返しちゃえばいいしねっ」
 最初の十字路を戻った向きのまま左に曲がり、進んでいくとすぐにまた十字路。この辺りは住宅街でそこそこ入り組んでるようだった。
「どうします? まだ曲がります?」
「直進しちゃおう。あっちこっちで曲がりすぎるとどう行ったか分かんなくなっちゃうし。それにあたしたちは別に迷路を攻略するとかいうわけじゃないんだしねっ。一直線の方が振り返ったときに誰か変な動きの人が居たらすぐに見つかるさっ」
 確かにそれは言えてるかもしれない。
 鶴屋さんの進言により、俺たちはとりあえず真っ直ぐ進む事に。
「ところでキョン君」
「なんでしょう」
「みくるのことはどう思っているんだい?」
 思わず立ち止まってしまった。突然何を言い出すかと思えば、朝比奈さんのこと?
 もちろん朝比奈さんは絶世の美女と単に言うだけでは飽き足らず、単に言葉を並べただけではいつまでも形容しつくせないような人であり、先輩としては少し頼りなくて、未来人だからか世の中の流れとか常識に弱くて、さらにはハルヒにいろいろおもちゃにされながらもほとんど毎日部室に来ているという健気かついじらしい方だとは思うが。
 長考しすぎたのを見て鶴屋さんは高笑い。
「はっはっは、実にキョン君らしいね。きっと古泉君なら「なかなかに魅力的でかつ庇護欲をそそる女性だと思いますね」なんてことをさらりと言ってしまうんだろうけどさっ。キョン君はあれだね、喋る前にいろいろ考えちゃうタイプだねっ」
「面目ないことです」
 完全に鶴屋さんに弄ばれている。
「いやあ、別に変な意味で言ったわけじゃないんだよ。ほら、みくるっておっちょこちょいでどこか抜けてたりして、よく見てないと心配だよねっ」
「ええ」
「あたしもだから良くあの子のことを見てるんだけどさっ。キョン君やハルにゃんたちの方が部活とかで一緒に居るのが長いんだよねっ。ほら、みくるも学校終わったら昔は書道部に行ってたし、数年前まではSOS団で毎日部室に行ってるって言ってたしねっ。あたしはクラスは同じでも結局休み時間とお昼ごはんの時間くらいしか一緒に居なかったのさっ」
 言われてみればSOS団のとき、朝比奈さんはハルヒの言いつけを律儀に守ってメイド服で毎日のようにお茶淹れをしていたっけ。ならば鶴屋さんと朝比奈さんが一緒に居る時間は確かにそれくらいになってしまうな。俺と谷口や国木田みたいなもんだ。
「だからあたしよりもきっとキョン君たちの方がみくるのこと良く知ってると思うからさっ。女同士じゃないとできない話もあるだろうけど、そうじゃないときはキョン君にまかせるからよろしくっ」
 と言われましても。朝比奈さんが俺を頼るか頼らないかは分からない。どちらかといえば、腹立たしい事に、古泉の方がそういう状況には耐性ありますし。俺は元々も今も一般人ですから。
「ま、頼まれたらでねっ。むしろ無理にみくるに何か言ったってあの子だって割と頑固だから何にも言ってくんないよっ」
「まあそのときが来たらそうします」
「うん、よろしくっ」
 と丁度会話が終了したところで俺の携帯が着信を告げるべく振動し始めた。