というわけで未だ鐘の音が耳に残っている、というのは少し大げさにしろまだなんとなく耳に違和感が残っている翌日。
「みんな揃ったわね!」
 いつもの喫茶店で3つの机を同時占拠して、少し日焼けして黒くなったハルヒが周囲に座っているメンバーを見回す。
 急な連絡だったにもかかわらず、全員が集合できたってことは割と暇なのか?
 俺は昨日までは暇だったが、今日から暇じゃなくなる。
「お久しぶりです」
「まだ夏休み始まってほとんど経ってないだろ」
 夏休みが始まって、これでしばらく顔を合わせないだろうと思っていた数日後には合わせているんだから、久しくもなんともない。せめて1週間は無いとな。それでも短いが。
「それでも毎日会っていた頃から比べれば十分に久しぶりと言えるような気がしますが」
 まあ、そりゃそうかもしれないが、それが普通になりたくないな。
「で、キョン。ちゃんと書類は全部持ってきたんでしょうね」
「当たり前だ」
 このためだけに集まったようなもんなのに、1番重要なものを忘れたら話にならん。
 だがその前に机の上を拭かないとまずいだろ。
 机の上にはそれぞれが選んだ飲み物のコップが置いてあって、全員が冷たい飲み物を頼んだせいで結露した水が机の上に伸びている。
「そんなに気にしなくても大丈夫だって。ほら、貸しなさい」
 ほとんどひったくるように俺が持っていた紙袋を受け取る。ちっとはそういう部分を気にしろ。余分な紙は1枚しか余らないんだからな。
「ふうん、こいつに名前とか書けばいいわけ? っていうか自分と保護者名書くところしかないんだけど」
「ああ、そうらしい。前言ったみたいに学生のみでの参加となる場合は親の了解を得たという証明が必要らしくてな、自分の名前の上に保護者名と印鑑が必要らしい」
「じゃあさっさと書いちゃいましょう」
 とか言いつつハルヒは書き方も読まずに欄に名前と保護者名まで書き始めた。せめて書き方読めよ。
「ちなみに提出期限は今週末、というか土曜日までだから急がなきゃいかん」
「随分急ね。普通こういうものって1ヶ月以上は前に告知するものでしょ。ま、行けるのが2週間くらいの期間のどこか3日間って辺りからして怪しい臭いがプンプンするんだけどね」
 もしかすると旅行が無料で行けるということ以外に、そっちでもしかすると奇妙な事件に巻き込まれる事ができるかもしれない、なんて思っているのか。さすがにそんな予想はしてなかった。
 その辺りは知らん。どうしても知りたければ今度その紙切れを渡しにいくときに付いてきて尋ねりゃいい。
「面倒ね」
「だろうな」
 自分が好きだとかやりたいことにはとことんやる気を出すが、そうでないところは全くと言っていいほどやる気を見せない。今回は後者の典型的な例だな。
「とりあえず名前だけでいいんですか?」
 ハルヒが配った紙に目を通しながら朝比奈さんは呟く。
「そうですね。人数把握と学生のみなので親からの了承がちゃんと取れるか確認のためだと思うのでとりあえずは」
 とは言うものの、時期が時期だからさっさと決めなきゃいけないことは間違い無さそうだ。頼むのが遅れてしまえば遅れてしまうほど、行けるのが後にずれ込むからな。
「んじゃ各自解散でキョンの家のポストか直接渡しておけばいいわね」
「いや、それじゃ困る、というかできん」
「なんでよ」
「親の実家に帰らなきゃいけないからな」
 だから実は集合をする前に親またはそれに準ずる立場の人から了承を受けてきてくれ、と言ってあったりするのだ。幸いな事に保護者名は直筆で無ければならない、ということは無いようだからこの場で全部書いて貰おうという魂胆だった。そうでもしないと解散して再度集まるのにも時間が掛かるしな。
 とはいっても朝比奈さんなんかはこっちの世界に、というか時間軸か、親が居るか分からなかったりするし、古泉や鶴屋さんなんかも家庭事情などはさっぱり分からん。長門、朝倉、実希の3人は親が居ない、というか『情報統合思念体』と素直に書かれても困るので適当にごまかしてもらわなければならないが、とにかく保護者名の欄についてハルヒ以外は各自考えてくるように頼んでおいたから問題はないだろう。
「親御さんの実家に帰らなきゃいけない日に大変だねっ!」
「まあ当たっちゃいましたし、勿体無いというのもありましたから」
 後は冷房の効いた部屋で昼寝をしていたのを起こすのもなんだということで置いてきた妹が行きたがってたのもある。時期と手続きを考えると取りやめるべきかとも思ったが、残りを朝倉と長門と実希の3人が請け負ってくれるということなのでこうして集合したわけだ。
 数分で全員書き終わったのを回収したハルヒから紙袋を受け取る。
「でもあんたが帰っちゃったらどうすんの? 話が詰めれないじゃない」
「8月の5日までに細かい話があったら朝倉に話をしてもらうように頼んである」
 一緒にあの場に居た人物というのもあって本来は長門に頼みたいところだったのだが、この無口と一般人との完全なる隔たりとが相まっておそらく相手も話がしにくくなりそうだということで朝倉に頼んだ。学級委員長をやってるくらいだから、そういう会話はお手の物だろう。
 さらに5日までに細かい書類を提出しなければならないという場合は俺の筆跡を真似て長門に必要事項を記入してもらうように頼んだ。
 その内にこの2人には埋め合わせしなきゃな。
「というわけで朝倉から連絡を貰ってくれ」
 喫茶店を出て、自転車にまたがる。
 さてママチャリよ。もう少し頑張ってくれ。こいつを届けて家まで帰れば1週間近くは休ませられるからな。