週末と言えば、学生の休息日である。
ごく一般的な生徒は惰眠を貪り、喫茶店で談笑し、ゲームセンターで競争し、と様々だろう。
そう考えれば、今こうして俺達が一堂に会することは、あながち休日という本来の意味合いからかけ離れたものではないと言っていいかもしれない。
「さあ行くわよ!」
しかし、なんでだろうな。地動説を唱え続けたために異端審問に掛けられ、軟禁状態になったガリレオみたいにやってくるどうしようもない絶望感みたいなのがやってくるのは。
「この辺よね。えーと、谷口だっけ、あいつが言ってたのって」
「ああ」
ヘビにしちゃ形が変だし、かといって今まで見たことある生き物とは合致しない、つまりは変な生き物だったせいで印象的だったとか言ってたな。
まあ、どちらかといえば、今のこの状態もかなり奇妙なものに分類される状況で、先程から通行人がすれ違うたびに振り返っている。
それもそのはずだ。高校生8人がアマゾンの奥地までアナコンダでも見に行くのかといういでたちで、閑静な住宅街の一角にある空き地で何やら怪しげな会議を繰り広げてるわけだ。そりゃ、目も引くだろうさ。
そうだな、その通行人はなんかの劇の練習か、はたまた突然やってきた流行なのかと疑ったに違いない。間違いなく言おう、おそらく通行人の中で俺達の行動を正確に当てられるヤツは居ないだろうな。
「ハルヒ」
「何よ」
「この格好、どうにかならなかったのか」
虫取り網にしちゃ大きすぎる網を肩に担ぎながら、意気揚揚と答えた。
「こっちの方が雰囲気出るじゃない」
そんなもの必要ないと思うがね。
「形だけじゃだめだけど、基本的に何事も形から入るのは大切よ。もし、こういう格好していたら、ツチノコだって、チュパカブラだって、『テレビ番組で自分を見に来たんだ』とか思って出てくるかもしれないわよ」
どんだけテレビ好きなんだ、今の幻獣は。もし、それがマジだとしたら、既にそれっぽい番組で捕獲されているはずだし、少なくとも映像くらいは残っていてもいいはずだ。
それがないってことは、存在しないか、存在しているとしても人間を警戒して出てこないってことだろう。こんな格好をする必要条件にもならん。
「いいえ、不自然だわ」
出た、ハルヒ的不自然理論。
「噂にはなっているのに、誰も捕獲どころか撮影すらされていない。火のないところに煙は立たないって言うでしょ。煙が立つってことは、それ相応の火が存在するはずだわ」
完全な創作、捏造、妄想話である可能性もあるぞ。
「まあまあ、ここは涼宮さんの好きなようにするのがいいと思いますよ。こちらとしても、そうやって夢中になっていてくれた方がありがたいという面もありますが」
後ろの文は声を潜め、ハルヒには聞こえないように言った。ああ、確かに。
と、実希。その酒瓶はなんだ?
「ツチノコの好物らしいです。お姉ちゃんが読んだ本に書いてあったとか」
こくりと首を縦に振った長門が読んだ本の内容を要約する。
「ツチノコは草むらで発見されることが多い。そのため、山の中の茂みなどを探すと良い」
そんなことが書いてあったのか。
「そう。P.23の棲み処について、という章に書いてある」
胡散臭いを通り越して、大真面目にこんなものを書いている著者と出版社に、「豪華・涼宮ハルヒと行く 奇獣・幻獣探しツアー」にご招待したい。もちろん、全ての費用はこのふざけた本の制作者達だ。
「ツチノコって本当に居たんだね!いやあ、あたしたちの世界でも伝説になるような生物で、滅多にお目にかかれないのさっ」
こちらもハルヒに聞こえないように。いえ、俺達の世界でも伝説でしかないですよ、鶴屋さん。見つける気満々なのはハルヒだけです。
「捕獲方法は自動封鎖式の檻の中に酒を入れて、ツチノコが出そうな場所に設置する…ですって。ここで見つかったってことは、この辺りに仕掛けて置くべきかしら」
朝倉が手に持っていた中の酒が減ったら勝手に扉が閉まるように設定した、とハルヒが豪語している檻の様子を確認しながら提案する。
さすがに空き地とはいえ、こんなところにそんなものを置いたら、警察に危険物だと通報されることは間違いないだろう。せめて、人目に付かない、一番近場の山の中とかにするべきじゃないか?
「まあ、それもそうよね。よし、じゃあ今日は罠を仕掛けて解散にするわ!」
俺の提案が採用され、そこから10分と掛からない、山と言うよりは丘といった感じのところに、ツチノコ捕獲マシーンを木陰、または草陰に隠した。ポイントは、ハルヒ的「ここが出るわよ」ポイントであるため、捕まらなくても俺達のせいではない。
ハルヒ曰く、というかこの「ツチノコマニュアル」曰く、その日中に捕獲できなければ、次のポイントに変えた方がいいんだとか。
ちょっと待てよ。それは明日もここに来ることを約束されているわけで、下手すると明後日、明々後日も捕まえるまで探し続けるとか言わないよな?
それに一番言いたいことがある。やっぱりこの格好の意味、そしてお前が持っている網、長門に持たせた虫籠。この檻以外の全て、必要ないだろうが!