「簡単な話です。この世界は涼宮さんが望んだにしては涼宮さんにとってさほど良くないということです」
「たったそれだけでかよ」
「ええ。でもこれはかなり大きな判断材料と言っても過言ではありません。涼宮さんがもし世界を作り変えるのだとしたら、涼宮さんにとってもっと都合のいい、宇宙人や未来人のような非現実的な生命体が跋扈している世界になっているはずです」
確かに大分前にそんな話を聞いた覚えはある。
だが必ずしもそうとは限らないだろう。ハルヒが本当に神様であり、世界を全て作り変えてしまう能力を持っているのかということ自体に未だ少し疑問を持ってるところだしな。あんな閉鎖空間だって、こいつらみたいな能力だけだって可能性もある。
「問題がまだある」
「なんでしょう」
「もしあのときから異なる世界から俺が来ているとする。で、聞く限りではお前の元の世界には1年9組はあったんだよな」
「ええ、そういうことになります」
「俺が知ってる世界もそうだ。1年は9組まで存在している。そしてお前がその1年9組に転校生として入ってきた」
「同じですね」
頷く古泉を見てから俺はアイスコーヒーを1口飲んでからさらに言う。
「だからといってお前が来た世界と俺が来た世界が同じという証拠も無い。つまりハルヒが作った世界に他の世界からそれぞれ摘まれてきた、という可能性もあるわけだ」
「なるほど」
「お前が言った『他の世界から来た』という説を信じたとして、俺たちがここへ来たことで完全にハルヒの好きなようにはならなかった、って可能性もあるんじゃないのか」
世界の成り立ちなんてのを俺が知ってるわけが無いのだが、あくまで可能性としてそういうのもありそうだって話だ。
「可能性としてはあると思います。しかし可能性は限りなく低いでしょう」
「何故だ」
「世界ができてから突然方向修正を行うのは非常に難しいです。ごく一部ならまだしも、大きく舵を切って変更する場合は、あなたも実際に体験したとは思いますが、根底から世界を変えてしまわなければなりません。物理法則に限らず、地球上に住む生命体にも大きく関わります。もし完全に物理法則を変えてしまった世界へ僕たちが飛ばされたとすればそれだけで世界が勝手に変化することは限りなく低く、非常識的な物理原則の下で僕たちが生きるという状況になる方が何倍も現実的です」
言えてるかもしれないな。
「とはいっても、僕が今言ったことは全て仮説であり、同様にあなたの意見も仮説に過ぎません。実は涼宮さんが作った世界であるという可能性もゼロというわけではないですから。この辺りを完全に説明しきることは誰1人としてできないでしょう。あの情報統合思念体を母体に持つ長門さんや既に彼女たちにとっては過去である現在を今進んでいる未来人の朝比奈さん、そして未だ謎が深い鶴屋さんでも、おそらくそれは不可能でしょう。だからこそ涼宮さんの傍でこれだけ多くの人間が観察をしているのですから」
だろうな。既にハルヒを観察する必要がなくなっていれば、あの場を去っているはずだ。
「ですから僕ら『機関』の人間としては、今回起こった事件……いえ、今も続いているものなので起こった、という過去形で表現するのは間違っているのかもしれませんが、涼宮さんによって作られたものではなく、同時に僕らがその誰かによって作られた世界へ迷い込んだという結論付けをしました。これからも調査は続けますけれども」
「ああ」
「これはあくまで僕たち機関の人間から見たものですから、全面的に正しいというつもりはありません。ですがあながち間違っているというつもりもありません。ただ単にあみだくじで決めたような結果ではないですからね」
「分かってるさ」
腕時計を見た古泉。
「さて、随分話し込んでしまいましたね。旅行から帰ってきてすぐお呼びだてしてしまいましてすみませんでした」
「構わんさ」
「こんなことをお話させていただいたのは他でもありません。もし涼宮さんが作った世界でないのならば、涼宮さんが狙われているという可能性は高く、そのときに涼宮さんを守れるのはおそらくあなただと思ったからです」
どうかな。
「そういえばハルヒのやつは俺たちと同じようにどこか別の世界から呼び寄せられたのか?」
両手を天井に向けた古泉。
「僕には分かりかねます。ですが仮にそうだとしても、僕たちが彼女を見捨てる理由はありません」
「……そうだな」
「先ほどの話の内容はここだけの秘密にしておいてください。話をしたという事実を伏せる必要はありませんが、中身については『機関』としての決定もありますから。その内におそらく長門さんたちとも同じ話題の話をし、そしていつかあなたが涼宮さんに対して選択しなければならないことが訪れるかもしれません。そのときの参考になれば幸いです」
そう言って古泉は立ち上がり、「会計はこちらで済ませておきます」と伝票を持って席を立った。
俺は店を出て行った古泉の背中を見送ると窓の外を見つめた。
どこの誰が作った世界なのかは知らないし、興味も無い。俺が今生きているというのは間違いない話だからな。
だが、この世界の創造主がハルヒたちに危害を加えるようなことがあるのならば、俺は迷わず行動をする。その行動がどういう形になるかは分からないが。
氷で薄くなったコーヒーを飲み干してから店を出た。