ミミズがようやく土の中から出てきたものの、日照りにやられて動けなくなったかのように俺は長机の上に突っ伏していた。
「だるい……」
 旅行に行って帰ってきてからも怒涛のようにハルヒがあっちこっちへ移動計画を立てて、旅行時よりも睡眠時間は取れているものの、活動量はむしろ増えているくらいだから疲ればっかり蓄積されていく。
 ミステリーサークルが昔出来たとかいう場所へ連れて行かれ、周囲をうろうろしてUFOが居ないか確認したり、河童が出るという川まで出向いて川沿いを延々と歩いたりとしてからようやく戻ってきて一段落。
 ハルヒが「一旦休戦」と宣言したとおり、今日は部室に集合するだけで特別何かをしようというわけではなかったようだ。
 何を買うのかは知らないが、とにかくハルヒが買い物に行ったのを確認した、その直後が冒頭に繋がる。
「どうぞ、お茶です」
「ありがとうございます」
 なんとか体をふらふらさせながらも起こし、朝比奈さんのお茶をすする。ああ、生き返るようだ。
「キョン君、本当に大丈夫? 前みたいに倒れたりしない?」
 メイドの仕事に看護も含まれているのかは知らないが、久々なメイド服姿の朝比奈さんがそう言った。
「そこまでは。結構疲れてるのは確かですが」
 できるだけ元気を残しておくようにしておいたつもりだったんだが、旅行をほとんど休み挟まず連続だったのが結構響いてるんだろう。
 行く先々での荷物持ちをさせられたのもあるだろう。カメラとかカッパとかUFOに関するガイドブックとか、どこで手に入れたんだと思うようなものとかまで持っていったりするから余計に重いんだよな。
「ん……熱はそんなに無いみたいだけど、疲れてるなら早めに帰った方がいいかもしれないわね」
 少しひんやりした朝倉の手が額に当てられる。
「うんうん、その方がいいさっ。倒れられてもハルにゃんも困るだろうしねっ。ところで1人で帰れるかい? なんだったらあたしも付いていこうか?」
「大丈夫です」
 というよりも既に帰る方向で確定してるのか。
「それでいいと思いますよ。いくらなんでも涼宮さんも体調が悪い人間を無理やりに動かそうとはしないでしょうし、むしろ倒れられる方がこの先のスケジュールを遂行できなくなりますし。涼宮さんにはこちらから言っておきましょう」
 分かった、頼む。
「了解しました」
 窓際で暑さも感じないように汗1つかいていない長門姉妹にも挨拶して扉を閉めた直後に眩暈が。思ってたよりも酷いかもしれんな。
 帰り道でハルヒに会わなかったのは良かったことだったと思おう。
 帰ってきてすぐ、俺は自分の部屋へ戻り、扉の鍵を閉めて布団に仰向けで倒れこむと世界が回ったような気がして、そんな記憶も10秒と経たないうちに無くなった。

 しばらくして目が覚める。暑すぎて途中からまともに寝てられん。
 シャワーに入ってリビングへ行くと丁度夕飯だとの声。
 終わってから久しぶりにテレビを点ける。妹がクイズ番組でことごとく外しながらきゃいきゃいと楽しんでいるのを背後に見つつ、特に見るものも無くなった俺は天井を仰いでから再び目を瞑る。
 けれども妹の顔面シャミセン落としで強制的に目を覚まさせられた。恨めしそうに時計を見上げると30分も寝ていないらしい。
「キョン君あそぼー」
「……疲れてるんだよ」
「えー、いいじゃん、遊ぼうよー。ほら、見てキョン君。シャミが芸覚えたんだよ。あのね……いないいなーい……」
 と子供をあやすかのように両手で顔を覆い、
「ばあ!」
 両手を開く。シャミセン、動じず。
「あれ、お昼にやったらね、顔を隠してる間にシャミセン近づいてきたんだよ! もー、シャミ! ちゃんと動いてくれなきゃ駄目でしょー」
「にゃあ」
 完全に愛玩動物化した、三毛雄は全く興味も無さそうに寝転がっているだけ。
「ほらシャミ、もう1回。ちゃんとやったらおやつあげるよー」
 再度挑戦するも全くシャミは動かず。
「ご機嫌斜めみたい」
 まあ、そういうときもある。俺だって今日は全くやる気が出なくて帰ってきたんだしな。
 再び芸の仕込みに入った妹とシャミをリビングに残して部屋に戻ると携帯電話の着信があったことを携帯電話が告げていた。朝倉からの不在通知とメール、それぞれ1通か。
『明日午後8時に北高校門前に集合』
 とだけ書いてある。この簡潔さから言っておそらく発信者は朝倉ではなく長門だろうな。
 学校前か。今度は何をするつもりだ? 随分集める時間も遅いな。
 ああ、そういや今年はまだ肝試しなんかもやってなかったような気がする。その辺りだろうかね。
 この辺りに特別な何か、例えばチュパカブラとかが出るなんて話を聞いた事は無いから、学校からどこかへ向かうつもりだろうかね。
 ま、いいや。今日はかなり寝てばかりだが、まだ眠気も取れないし寝るとしよう。
 ベッドに入ると3度目だが心地よい眠気が襲ってきた。やっぱりかなり疲れてるんだろうと考えながら、睡眠欲に意識を委ねた。