「よう、長門」
「……」
「何を読んでいるんだ?」
「これ」
「涼宮ハルヒの憂鬱か」
「そう」
「俺たちの活躍、というよりは、ハルヒの暴走っぷりが記された、歴史に残る一冊だよな」
「そう」
「しかし、この本の題名に不満な点がある」
「何」
「まあ確かに、あいつが平穏な日々に憂鬱で、それによって世界を作り変えようとする、みたいな話であるから、涼宮ハルヒの憂鬱というのは正しいかもしれん」
「そう」
「しかし、正直あいつが憂鬱そうにしていたのはたまにで、基本的には俺の方が憂鬱だった。つまり、この本の題名は、涼宮ハルヒの我侭とか、涼宮ハルヒの対面とかの方がよっぽど正しい気がする」
「そうかもしれない」
「まあ、そんなことはさておき。それより、気になることがある。いつもは地の文、というか俺の心情説明とかがあるわけだが、何故、今回は全くないんだ」
「それは、作者の趣向」
「現在地はいつも通り、SON組の会議室であり、休憩室であり、俺が頭を痛めるような宣言をハルヒがするところ、いわずもがなの組室だ。って、こういう感じでいちいち説明しなきゃいけないんだが」
「それは、作者の誤爆」
「そして、何で長門と俺だけなんだ。ハルヒとか、朝比奈さんとか、鶴屋さんとか、朝倉とか、実希とかはどうした」
「それは、作者の手抜き」
「そうか」
「そう」
「……古泉も居たな」
「居た」
「というか、何故長門がそこまで知っている。まあ、聞く俺も俺だが」
「書置きを残していったから」
「よく見ると、確かに、両面白紙の印刷用紙に、びっしりと委細が書いてあるな」
「ある」
「なあ、長門」
「何」
「この話の作者、殴ってきていいか?」
「死なない程度に」
「どうだった」
「駄目だ。あいつ、こうなることを先読みして、ホンジュラスに逃げやがった。ちなみに、ホンジュラスはメキシコの下ぐらいで、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグアと隣接しているぞ」
「知っている」
「そうか。時に、長門。さっきから気になっていたんだが」
「何」
「本を左手に持って読みながら、右手でブログの更新はいかがなものかと」
「大丈夫。マウスを持つ時は1度手を離す」
「そういう問題じゃない。どう考えても、この状況は普通の人間には処理しきれない。せいぜい常人ができるとすれば、本を片手に持って、本の内容を右手だけで打っていくくらいだ。お前みたいに、本を読みながら、全く違う文章を打つのは、まず人間には不可能だ」
「人間もやろうと思えばできる。修練することによって可能」
「人間の寿命が終わるまでにか?」
「それは無理」
「結局無理なんじゃないか」
「理論的には、どちらの動作も並列的・独立的に行えばいいだけ」
「最新鋭のコンピュータくらいにしかできないことを、真顔でさらりと言わんでくれ」
「そういやさっき考えたんだが、この会話文のみだけの状態って、アニメの時とほとんど同じなんだよな」
「進行形式は非常に近似している」
「つまり、もしこの「それゆけ、SON組!」がアニメ化したときには、今回の話はすぐに話ができるな」
「でも、アニメ化はしない」
「人が、まだアメリカ大陸を発見していなくて、誰よりも早くインドへたどり着く航路を発見しようと、出航を待っているコロンブスみたいな期待をしながら言っているのに、瞬時に希望を水泡に帰すのはひどいと思うぞ」
「本当のこと」
「本当だからだ」
「……そう」
「やれやれ、仕方がない。朝比奈さんが居ないし、自分で茶でも淹れるか」
「私が淹れる」
「お、長門がか」
「そう」
「じゃあ、頼む」
「できた」
「なかなかだ」
「そう」
「しかし、なんだろうな。もうちょい、濃い目というのかね」
「分かった。今度は間違えない」
「ああ、今度な、って今からか」
「できた」
「今度は出しす、ってまたか」
「できた」
「ちょっとぬる、いや、待て」
「できた」
「ああ、完璧だな」
「そう」
「お陰で、胃が茶でいっぱいになってるが」
「物理的にはまだあと3杯は入る」
「胃の内容量が全部お茶ってのはどうなのかね」
「健康的」
「どこがだ。……なあ、さっきから気になってたんだが」
「何」
「この会話形式、そしてさっきからの流れだと、漫才にしか見えないんだが」
「なんでやねん」
「と、上手い具合に落ちたところで、今日はここまで。また来週」
「おい、実希。突然出てきて、おいしいところだけ持っていくな。来週ってなんだ、どこがどう上手い具合に落ちたんだ、教えてくれ!」