「絶対に無いとは言い切れません。と言いますのも閉鎖空間の発生は出来てようやく分かることなので。しかしながら確認が困難な場合や極めて短時間の不機嫌さによって閉鎖空間が発生したことはほぼ無いと言っていいでしょう」
「で、最近はそういうズレが増えてきたからおかしいということか」
「そういうことです」
 自分の湯飲みを傾けながら古泉は相変わらずの標準化された笑顔で頷く。
「先程、本当に10分ほど前です、機関から閉鎖空間ができたと連絡が入りました」
「10分前?」
 って俺が来る前か。
「そのとき既にここへ涼宮さんは着ていましたが、特別不機嫌そうな顔をしては居ませんでした。強いて言うならばパソコンの調子が悪いから見て欲しいと長門さんに頼んでいたことくらいでしょうか」
「そいつが原因なら昨日の部活中で既に閉鎖空間が発生しててもおかしくないな」
「僕はクラスメイトの手伝いで部室には居ませんでしたが、その証言からもおかしい状況だということを察していただけるかと思います」
 確かに今更という気がしないでもないな。
「幸い今回発生した閉鎖空間は小規模かついつもより神人も普段より弱かったそうで、僕が行くまでも無く閉鎖空間は消滅したと再度連絡がありました。後数分あれば僕も参加できたのですが」
「後数分? そんなに近くに閉鎖空間が出来てたのか」
「同様にホテルの一件で涼宮さんの傍または学校周辺のみに閉鎖空間が発生するようになったと申し上げた気がしますが」
 思い返してみればそんなことを言っていたような気はするが、あのときはビルの上で死ぬか生きるかの瀬戸際だったからな。言われればなんとなく思い出すが、何を言ったか全部思い出せと言われても思い出せない程度には記憶にある。
「とにもかくにも涼宮さんの機嫌の良し悪しに関わらずその力が発揮されてしまうような状況、つまり涼宮さんの力が独りでに暴走してしまうかもしれないということです。または先程申し上げたとおり、たまたまにたまたまが重なって実は涼宮さんが原因ではなかったという可能性もゼロではなくなりました。涼宮さんを逐一観察している存在が居て、何らかの原因で夏休みの間にそれが不可能になり、適当にその能力を乱発しているというね」
「だがそうしたらお前がハルヒの作った閉鎖空間をどうのこうのって話が全て嘘になるてことだろ」
「ですから僕を含む『機関』では前者の、力の暴走を前提に動いています」
 言いたいことが分からんでもない。だがそこまでの話を俺に聞かせて何の意味があるんだ?
 確かに俺にも関わりがある話でばある。古泉がいつも掲げている『ハルヒ神説』は胡散臭さはあるものの嘘と断定できる要素も持ち合わせていないから、もしその話が本当なのであれば下手を打てば世界が崩壊する可能性も十分にある。つまりその世界に生きている俺が生きるか死ぬかって次元での話にもなるわけだ。
 かといって俺にそんな話をされても「何かあったときは覚悟してください」と言われている気しかしないね。末期のガン宣告と同じようなもんだ。
「そうでもありません。何度もお話していると思いますが、この世界は涼宮さんによって作られた、あるいは涼宮さんによって容易に世界を変容させる力を持った人です。今まではその能力を彼女自身の感覚や意志でコントロールできていたために何の問題もありませんでした」
 お前の話の前提が間違っていないとしたらな。
「しかしこんな奇妙なことが起こり始めたのは夏休みが始まってからです。つまり涼宮さんは夏休み中に何かあったと考えるべきでしょう。これも少しお話したと思いますが」
「かもしれん」
「ですからあなたには涼宮さんが夏休みの間に何を知ったのか、または何を得たのか、それを尋ねてもらいたいんです」
 そういうことならむしろお前の方が適任だろ。俺にあいつがそんなこと教えると思うか?
「思いますね。僕は単なる部員の1人であり、それ以上ではありません。ですから僕と涼宮さんの会話には必ず何らかのベース、例えば夏休みにどこかへ旅行へ行きたいとか何かをしたいといった、いわばイベント係的な要素を含んでいます。ですがあなたはもっと基本的なことでも頻繁に話しかけている。それが信頼度の違いだと僕は考えます」
「だからと言ってあいつが何でもかんでも喋るという保証は無いぞ」
「涼宮さんも実は夏休み前半に起こったことついて誰か聞いてくれる人を探しているのではないかと思います。ですからあなたが上手くその話題に持っていけば近づけるのではないかと」
 どうだか。まあ言ってることに対して全く理解ができないわけではないが、いくらなんでも買いかぶりすぎだとは思う。
 苦笑しつつ答える古泉。
「正直これに関しては僕ら『機関』側からどうにかできるものでもありませんからね。閉鎖空間のランダム化についてもそうですが、こちらから関わることが出来る部分は超能力者所以の部分であり、閉鎖空間の処理はできますが、なぜ閉鎖空間ができるのかなどといった根本は残念ながら関わることが出来ません。ですからそこはあなたに任せるしかないんですよ」
 まかされてもな。
「その内に聞いてはおく。だが期待はするな」
「分かりました。駄目でしたらまた別の方法を考えましょう」
「ああ」