無事に鞄を送り届けている間に、朝倉たちが先行して校門で待っていた長門たちに事情を説明してくれたらしく、戻ったときには全員が昇降口に集まっていた。
「どうだった?」
「間違いないってよ。全員分確認できたからようやく返してもらえたって感じだな」
「なるほどね」
「それにしても鞄の中とはちょっと考え付かなかったかな。さすがに個人情報だから勝手に鞄の中なんか調べられないし。そういえば前からあそこに鞄置いてあった気がするわ」
朝倉の言葉にハルヒが脊髄反射的に反応する。
「昨日の夕方に学校内を探したときにはあったと思う。何でこんなところに置いてあるのか不思議だったけど、同じように探してる子がすぐに帰れるように置いてた可能性もあって勝手に調べるのも悪いかなと思ったから触らないでおいたの」
「もっと前には?」
「朝……は見覚えが無いかな。ごめんなさい、ちょっと記憶が曖昧で」
お前も同じクラスなんだから知っててもいいだろうに。
「そんなこといちいち覚えてるわけ無いでしょ。それも下足箱なんか靴を履き替えるだけなんだからその上なんか見る理由も無い」
だのに朝倉には思い出せっつーんだから無茶苦茶にも程があるよな。確かに朝倉は普通の人間じゃないから俺たちよりは覚えている確率が高いが。
ちなみに俺は今日の朝気づいただけで、昨日の帰りにはさっぱり気づいてなかった。いつも帰るのが遅めで、最近暗くなるのも大分早くなってきたから見えなかったんだと言い訳しておこう。
しかしここんところ夕方以降の温度の下がり具合はかなりのもんだよな。冬服に切り替えの時期になりつつあるからそろそろ俺も着替えてこようか迷うね。昼間がその格好だと暑いから未だに夏服のままだが。
「でも何であんなところに置いてあったんでしょうか」
朝比奈さんの疑問も尤もだ。
というかテスト用紙が戻ってきたら、もう残りの疑問はそこと犯人が誰かということくらいしか疑問に残らない。
持って逃げようと思ったが何らかの理由であそこに置かざるを得ず、戻ってきたときには既に学校が閉まっててどうしようもなかった……というわけでも無さそうだ。教室の中ならまだしも、下足箱だけなら職員玄関が開いている普通の休日で取りに行くことが出来ないわけが無い。昇降口に24時間監視のカメラがあるわけでもないしな。
「っていうか鞄、結構古そうだったから鞄が変わった奴を調べればすぐに見つかるんじゃない?」
もしこの時期にたまたま鞄を変えただけの奴が居たらどうするんだ。犯人じゃないと分かったとしても、疑われるだけで精神的にはよろしくない。
ふんと鼻息荒くしながらも「まあそうかもしんないわね」ととりあえず納得したらしいハルヒは放っておいて、あんなところに置いてあった理由の詮索は続く。
が、この場で突っ立って井戸端会議をしていてはいつまで経っても帰れず、腹をすかせた妹に再三の抗議の電話を受けそうだから歩きながら話をすることを進言して、そのように事が運んだ。
「勝手に隠したものを誰かが持っていっちゃって、あそこに置いたとかどうかなっ」
「でもあんな場所に置く理由も、そもそもそれを隠した場所を知っている理由も良く分かりませんね」
古泉の即答に「あー、そっかー、そうだよねっ」と照れ笑いする鶴屋さん。
「盗んだ罪悪感と事が大きくなりすぎて後々になって返そうかと思ったけど返すに返せなくなってあそこに放置したとか、どう?」
どう、と聞かれてもな。たったそれだけで鞄を変えるとは思えないとだけ言っておこうか。鞄1つが1000円2000円で買えるものならまだしもな。
先に鞄を用意していたとしたらそこまで用意周到な奴が今更諦めるとも思えないがね。
「それはそうでもないと思いますよ。有機……人間の性格として、行動を起こす前までは昂ぶって一種の錯乱や狂気状態に陥っていながら、終わってから事の重大さに気づくというパターンも多いです」
実希が淡々と述べる。そうか? と思ったが、この前見たらこいつは人間行動学とかいう本を読んでいたりしたし、趣味というべきか分からないが、未だにちょくちょくヒューマンウォッチングをやっているようだから、下手するとそれよりも人間の行動パターンについては詳しいかもしれない。実際に何で人間の脳でそんな状態を引き起こすような部分が存在するのかみたいな根本的な部分まではおそらく分かっていないだろうが。
となると、鞄を最初から用意していたという可能性も排除は出来ないのだが、次には鞄に入れておく必要があったということも、鞄である理由もますます分からなくなる。
最初からバレるように置いておくならば鞄を開けておけばいいし、バレたくないのならばもっとわかり辛いところに置いておけば良かっただろう。
鞄じゃなくて単なる袋とか、そういうものでも良かったはずだ。中身が見えないなら別に鞄である必要はないんだからな。
「……いえ、待って。そうでもないかも」
ハルヒが突然制止をかけた。
「どういうこった」
「葉を隠すなら森っていうでしょ」
「だからどうした」
「普段見慣れた場所に鞄があったら誰も通報しないわよ。中身も見ないしね。単に忘れ物として扱われるだけ。でも学校の屋上とか、なんか妙に奥まったところとか、そういうところの場合は変なところにあるなって中を覗く人が多いわ。だからそう考えればバレにくいのよ」
1日2日ではそりゃ確かにいえるだろうよ。
結果的には俺が鞄をぶつけたことでさっさと見つかったが、どっちにしろ目の前にずっと存在する分、徐々に違和感は拭えない。掃除なんかの邪魔にもなるしな。
「何にしても良かったんじゃないでしょうか。無事にテスト用紙も発見されたことですし」
ま、そうだな。犯人が名乗り出るか、学校側で犯人を見つけるまではこっちが頭を悩ませることではない。ただでさえ、こっちは頭を悩ます原因がすぐ傍にいるんだ。いちいち首を突っ込む必要はなかろう。
どうしても悩ませたいのならそいつだけがやればいい。俺はやめておく。
……しまった。せっかくだから自分のテストの点数見ておけば良かったな。ま、嫌でも明日には受け取ることになるだろうからいいか。