俺は今、商店街に居る。突然だろうが、本当のことだ。
 いつも通りハルヒの思いつきだと思ったかもしれないが、今回は違う。なんと朝倉涼子からの提案だった。
 理由と状況をお知らせしよう。

「そういえば、年越しはどうするの?」
 珍しく朝倉涼子がハルヒに話しかける。いや、SON組の組員だから別に珍しくないだろうが、それまでがいろいろとあったせいで少し身構えてしまう癖はそろそろ治したいものだ。
「もちろん、この教室にみんな集まるわよ」
 おい、ちょっと待て。俺は親の実家にだな…。
「キャンセルしなさい。もしだめならあたしが言ってあげるわ」
 勘弁してほしい。
「他もいいわよね?」
「あ、はい。構いませんよ」
「…いい」
「大丈夫です」
「はい、もちろん」
「あっはっは、楽しそうだね!」
「私も大丈夫よ」
 他はみんな大丈夫なのか。よく考えると立場が立場だしな、確かに大丈夫というしかないだろう。
「それで、年越しをするとして買い物はもう済ませたのかしら?」
「別に前日でいいじゃない」
「だめよ」
 ぴっと指を立てる朝倉。何か問題でもあるのか?ああ、確かに前日だと物がないかもしれないから前々日くらいに、
「そういう問題じゃないの。いい?お正月近くになると、物の値段が上がるの」
 ホワイトボードに何やら書きだした。えー、これはきゅうりの絵か?
「なあ長門、朝倉はどうしたんだ?」
「よく分からない。特にバグも見つかっていない」
「そこ、ちゃんと聞きなさい」
 ホワイトボードに書くペンが飛んできて、俺の頭に直撃する。いてっ!
「普段、きゅうりの値段が1本50円とするわね。時期によって40円くらいのときもあるし、60円くらいのときもあるけど平均で50円とするわ。それで、これがお正月になるとこの価格がいつもより小さいので1本90円とかに跳ね上がるの」
 50円→90円とでかでかと、隣に”約2倍”と書く。随分と値段が上がるんだな。
「お正月前になると必ず人が買うからね。だから値段を上げても間違いなくお客は買っていってくれるの」
「た、確かにそれだと困りますね。お正月はいろいろと要り様ですし…」
「そう!」
「ひぃっ!」
 賛同した朝比奈さんにずいっと迫る朝倉。朝比奈さんは思わず座っている椅子からひっくりかえりそうになった。とにかく今日の朝倉は熱い。というかちょっと暑苦しい。ちなみに、残りのインターフェースたちは窓際で向かい合うように同じ格好で本を読んでいる。置物が二つに増えた印象だな。
「だからその作戦にそのままひっかかってはだめよ。値段が上がったからっていいものが置いてあるとは限らない。だったらいいものをいいうちに買っておかなきゃいけないの」
 ぐっとこぶしを握る朝倉。そんな朝倉に鶴屋さんが手を上げて質問する。
「でもさ、今買ったら葉物はすぐに萎れちゃうし、人参とかも冷蔵庫に置いてたらしわしわになっちゃうよ。いくら安いうちに、と言ってもおいしくないものじゃ寂しいじゃないかい?」
「大丈夫、そこは知恵を絞るの」
 ホワイトボードの表裏をひっくり返し、何やら新しく書き始めた。
「白菜とかキャベツなんかは芯をくりぬいて、水で湿らせたキッチンペーパーなどをそこに詰めて、周りをラップでくるめば長持ちするわ。根菜類は元々土に埋まってたものだから、ビニール袋から出して土にもう一度埋めなおしておくの。そうすると、冷蔵庫に置いておくより新鮮な状態で使いたいときに使えるわ」
 キャベツの芯を抜く、ラップでくるむ等を書きこみながら説明している朝倉。そして、
「だから今のうちに買っておいて長持ちするようにしておくのがいいのよ!」
 ホワイトボードをばんっ、と叩く。全て言い切った!というような満足そうな顔だ。
 しばらくすると、ハルヒがすくっと立ち上がった。なんだ、何か問題でもあったか?
「素晴らしいわ、朝倉さん。さすがSON組副組長!なら善は急げだわ」
「ええ、もう今日からでも買いに行くべきね」
「じゃあ、行くわよ!」

 といった塩梅だ。そして既に両手に白菜だの大根だのを袋に下げている。もちろん俺が、なんだがね。
「水菜みたいなものはさすがに長持ちさせるのは難しいから使用前に買うしかないわね。湿らせた新聞紙にくるんで縦に置いておくとちょっとは長持ちするけど、あまり変わらないから」
「もう少しずつ値段が上がり始めてるけど、まだ安くて助かったわ」
 ハルヒと朝倉は先頭を歩きながら、随分と仲良さそうに話をしている。ちなみに長門姉妹は組室で相変わらず本を読んでいるので、買い物はそれ以外の組員のみ。
「大変そうですね、もうちょっと持ちましょうか?」
「あ、古泉君。いいのよ、キョンに持たせれば。雑用係なんだから」
 古泉が持っているのは新年で使う祝い箸などの小物だ。大きな物は全部俺になっている。正直結構重い。
「あ、あの…私も持ちますよ」
 いや、朝比奈さんには持たせられませんよ。もたせるならあの元気の塊というか源のハルヒに持たせりゃいいんです。少しくらいは無駄なエネルギーを役に立つところで使うべきだと思うんですがね。
「ハルにゃんはいつでも元気だね。元気なことはいいことさ」
 元気すぎるのも困るんですが。被害はほとんど朝比奈さんか俺なんすよ。
「まあまあ、みくるもキョン君もいい人だからね。仕方がないさっ。ハルにゃんも悪気があってやってるんじゃないだろうし」
 言葉を区切ってハルヒに聞こえないように。
「きっと、明るく振舞ってるけど寂しいんだよ。だからちょっと、がんばっちゃうんだろうね。少しくらい大目に見てあげてやろうさ。それにハルにゃんはきっと構ってほしいのさ、キョン君に」
 そういうものですかね…。
 教室まで戻ってくると、何、なんでもうカセットコンロとボンベが用意してあるんだ。その返答は姉の方から。
「家から持ってきた」
「あ、そういえば長門さんの家にあったわね、カセットコンロ。うちから持ってこようかなって思ってたんだけど」
 いつの間に。いくら買いものに時間がかかったとはいえ、早過ぎないか?それに本を読んでいたんじゃなかったのか。
「うちではあまり使いませんし、もうここに置いてください」
「そう」
 それならいいんだが。
「じゃあ準備するわよ」
 袋から野菜を取り出し、長机に並べて取り出したのは、…包丁だろうこういうときは。
「あら、使い慣れているの方がいいわよ」
「使い慣れていても困るんだが」
「いつもそれを使っている」
「マジか」
 手馴れた様子で芯を取り除き、買ってきたキッチンペーパーを水道でぬらし詰めていく。で、俺は何をすればいい?
「古泉君とこのスコップでどこかに人参とか埋めてきなさい」
 ハルヒに手渡されたスコップを受け取る。
 校庭に出て考える。どこかに埋めてこい、か。古泉、どこがいいか分かるか?
「あまり思いつきませんが、雑草が多い場所は良くないでしょうし、分かりづらいところも困りますね」
「というかそもそも勝手にそんなもの埋めてもいいのか?」
「さあ、どうでしょう」
 まずいと思うんだが。まあ…ばれないように…。
「こっちがいいと思います」
 しまった、さっそくばれたか!…って実希か。どこだ?
「文芸部の近くにある花壇の隅です。いろいろありますが細かいことはあまり気にしないでください」
 つまり、いろいろするんだな。
「いろいろします」
 分かった。任せる。
 連れてこられた場所は旧校舎で使われていたものらしく、人の目にあまり触れないところであるから少し安心だ。少し深めに土を掘り、その中に全部埋める。
「これでしばらくは安心だな」
「そうですね」
 実希はなにやら高速で呟いている。前の長門と同じように、何かやってるんだろうな。
「これで来年までは誰もここを掘りません」
「そうか、ありがとうな」
「いえ」
 これで大晦日は安心だ。